トゥルルルル…………

 コール音が耳に届く。
 音がする度に心臓が鼓動を早くし、同時に銀色のシンプルな携帯電話を握る指に力がどんどん掛かっていった。
 どくどくどく、と流れる血液の音まで聞こえてくるんじゃないかと思う。
 想いを伝える手段は電話にしようと思ったのは三日前。
 手紙で想いを伝えようと思ったのは二週間前。
 あの人に告白しようと思ったのは一ヶ月前。
 自分があの人が好きなんだと気付いたのは半年前。
 ずるずるずるずる引き摺って、結局こうやって携帯を握りしめている。
 あの人、つまり女子の憧れの的って言ってもいい、隣のクラスの栗宮恭哉くりみやゆきや君。
 たまたま同じ委員会で、たまたま最初に隣の席に座って、たまたま彼が失敗しそうになったのを助けただけで向けられた言葉。

   『ありがとう』

 たったそれだけのことで、私は彼に恋をしてしまったのだ。
 暫くの間は気付かなかったし、多分意図的に気付かないふりをしていたんだと思う。
 彼の動向を気にしていながらも、私は極力彼に近付かなかったから。

   『あんた、栗宮が好きでしょ?』

 親友と言ってもいい渡瀬礼子わたせれいこちゃんにそう言われ、私は半年前やっとこの恋心を認めることが出来た。
 けれど彼は本当に女子の憧れの的で。
 告白の決心が付かないままずるずると今まで来てしまったのだ。
 でも、決めた。

  トゥルルルル…………

 コール音が耳に届く。
 この気持ちを伝えるだけでもきっと楽になれる。
 そう自分に言い聞かせて、私は今こうして恭哉君に電話を掛けている(電話番号は委員会で書かされたから知っていた)。
 コール音が途絶え、代わりに、

『もしもし』

 恭哉君の声が聞こえた。

「あ、あのっ、同じ委員会の鈴村玲奈すずむられいなですけど」
『ああ、鈴村。……何か用事?』
「え、えと、その……」

 ぐっ、と無意識に作っていた握り拳を更に握り混む。

「多分、色んな人に言われていて、私なんかに言われるの、迷惑だと思うんですけど」
『…………』

 何も言わずに先を促してくれる。
 だから私は決意を言葉に乗せた。

「あなたのことが、好きでした。好きです。このまま想っていてもいいですか?」

 言った。言ってしまった。
 これで拒絶されたらきっと、明日私は赤い眼で学校に行くのだろう。

『そう。鈴村は僕が好きなんだ』
「はい……」

 拒絶されるんだろうか。
 思わず強張る身体と声。けれど、聞かなければいけない。自分のためにも。

『ありがとう。じゃあ付き合おうか』

 一瞬頭が真っ白になった。
 今、彼は何と言った?
 あの恭哉君が私に、「付き合おう」って言った?

『嫌?』
「いいえっ! 是非、お付き合いさせてください」
『ならよかった』

 柔らかな口調でそう言われ、思わず私も笑みを浮かべてしまった。
 電話越しだけど、勇気を出してよかった。

『それじゃあよろしく、玲奈』
「はい、恭哉君」
『………………うん、これからはその「君」と敬語が敵か』
「え?」
『こっちの話』






後書き
甘ーい話が書きたくて書いた話。
ちなみに続きます。短くてごめんなさい。
でもまあ短編ですし!(開き直ったなこいつ)