私が恭哉君と付き合い始めて一週間が経った。
未だに恭哉君の周りには、綺麗な人や可愛い人が絶えない。
休み時間に会いに行けば、私から恭哉君の姿を隠すかのようにいる彼女たちは、本当に恭哉君が好きなんだな、と思う。
だからきっと、私の存在をよく思っていない。
隣のクラスの入口から中を見て戻ってきた私に礼子ちゃんが言葉を掛けてきてくれた。
「ちょっと玲奈。あんたいい訳? ダンナが他の女に囲まれてて」
「……いいの、礼子ちゃん。もしかしたらほら、授業のことについて話してるかもしれないし」
それだったら邪魔するのは悪いと思う。
言えば、呆れたような顔をして溜息を吐く。
解ってる。そうじゃないことぐらい、私だって気付いてる。幾ら鈍いとか言われる私だって、気付く。
でも、あの人達の中に入っていく自信、ないの。
みんなとっても綺麗で、私なんか比べものにならないくらいだから。
曖昧に笑って礼子ちゃんを誤魔化して、私は休み時間を持ってきていた本で潰す。
これが付き合い始めてから一週間の間、ずっと続いていた。
本は一週間ずっと同じ本。
礼子ちゃんは小説に興味がないどころか、読むと頭が痛くなるとか言うから気付いてないだろうけれど。
私の本は、栞を挟んだページから一ページも進んでいなかった。
内容が頭に入ってこない所為だ。原因もわかってる。でも、どうしようもない。勇気も自信もない。
ああ、なんて落ち零れ。
最初は側にいられるだけでよかった。
ああやって恭哉君が女の子に囲まれるだろう事は、普段の彼を知っていたから告白したあとも容易に想像できた。
一番近くにいていいというお許しを貰った私は、それだけで満足していたのに。
望んでしまった。
彼の隣に唯一いられる女の子でありたいと。
願ってしまった。
自分から行動しない癖に。
本を閉じ、机の上に伏せる。机にくっついた頬は、木の冷たさを伝えてきた。
けれど、体温が頬を通してじんわりと机に伝わっていく。
「どうして、今のまま満足できないんだろう」
「あん?」
私の呟きに礼子ちゃんが首を傾げる。
聞こえなかったならそれでいいや、と思って口を閉ざす。
それに、今のはただの独り言だったのだから。
「そりゃああんた、人間には欲望があるからでしょ」
でも聞こえていたらしく、律儀に答えてくれる。
どうやら先程の「あん?」は「何を言ってるんだこの子は」という意味だったらしい。
「欲望があるから満足できないの。満足しようと思うのさ。……玲奈、あんたはどうなの?」
「私?」
「そう。どんどん膨らんでるんじゃない? 栗宮に対する気持ちが」
実際その通りなのだ。
彼と長い時間お喋りしたいし、彼の側にいたいし、彼の手を触りたい。
膨らみすぎて、自分では手に負えないぐらい。
「どうしたらいいと思う?」
「あんたね、栗宮が選んだ彼女なのよ? 自信持って甘えればいいの!」
「それどんな甘え方」
礼子ちゃんを見上げながらそう言えば、さあ? と小首を傾げてくれる。
相談相手、間違えたかなぁ。
そう呟けば冗談で軽く首を絞められる。
うん、明日こそは休み時間、恭哉君に話しかけよう。
礼子ちゃんとじゃれながら、私はそう思った。
後書き
甘ーい話が書きたくて書いた話その3。
ちなみに続きます。短くてごめんなさい。
でもまあ短編ですし!(開き直ったなこいつ)